『吉田知子選集Ⅰ』「脳天壊了」への四題 によせられた回答

 

【問1】 

「しみ一つない真紅の椿」は、中瀬による殺人の帰りの、北満奥地の大草原のケシ・芍薬などの群生に接続、又は対照している。

(岡山県・Hさん)

 

対照するのは、

・(幻ではない)洋犬

・杢平

(Sさん)


【問2】 

・女の子とセールスマン風の男は、その発言と、墓地から出てきたことによって、中瀬への被害者的憎悪と依存からのみ世の中を見てきた杢平に、己れの転回を迫るものとしてある。

(岡山県・Hさん)

 

・少女はバイク事故の際の杢平の代替。

・男は中瀬の殺人を傍観していた杢平の代替。

・杢平を現実世界(正気)に戻すため。その理由は不明。

・杢平を物理的に動かすため。それに理由はいらない。

・考えや行動は状況によって簡単に左右されるということを表すため。

・杢平自身に客観的な視点を持つように催促するためかもしれないが、この解釈は小説からはみだしており、嫌い。

(Sさん)


【問3】 

・北満で杢平は中瀬を売ったあと、穴(窓)のない小部屋に放りこまれ、半日で出されて帰国したが、現在の杢平は中瀬の足の穴の中にいることでどうにか生きており、様々なネガティヴな気持をもちつつも穴から出られない。波状鉄板を撫で、意識的に匂いを嗅いでみたその穴から、椿を見た時、杢平の脳天は最後の壊了へ向う。

(岡山県・Hさん)

 

・中瀬の足の穴は貫通しておらず、向こう側が見えない。それに対し、波形鉄板の穴は貫通しており、向こう側が見える。と、考えると双方は似て非なるもの、つまり無関係といえる。また、足に穴のあいた中瀬は翡翠の根付(或いは婦人用の拳銃)と対応し、波形鉄板は垣根と対応していると思うのでなおのこと。

(Sさん)


【問4】 

・穴を覗いた時(理由は3)。

(岡山県・Hさん)

 

・問いの意味がよくわかりませんでした。「錯覚と迷妄」と「別の錯覚と迷妄」の連続している時点を述べればよいのでしょうか。もしそうであれば、穴を覗いた時点、であると答えます。なぜなら、それ以外の「錯覚と迷妄」は他者が闖入し、彼は現実世界に引き戻されるからです。

・問いを「錯覚と迷妄」が次の段階に入った時点はいつかと解釈すると、「木橋を渡った」時点、或いは「垣根をまたいで外へ出た」時点、であると思います。なぜなら鞄を提げた男に遭遇した直後にも「幻の犬」が見えたからです。

 が、しかしこれらの答えは違うでしょう。最後の問いがこんなに簡単なはずはありません。ほかの問いの解釈も不安になってまいりました。今夜は眠れません。

(Sさん)