ハイデッガーの『存在と時間』に刺激を受けた和辻が日本語で存在論的問いをたてようとその基礎付けを試みた論文。
和辻はまず、日本語における名詞の性や動詞の人称の有無、「てにをは」など助詞の多さについて考え、日本語が理論的方面ではなく芸術的方面に発達した言語であると指摘する。
次に「もの」「こと」「ある」「いうこと」という4つの日常のことばの意味を整理し、輸入した外国語ではなく真に日本語で哲学するための基礎付けを目指した。
目次 |
1 国民的特性としての言語 |
2 日本語の特質 |
3 日本語と哲学の問題 |
4 「こと」の意義 |
5 「いうこと」の意義 |
6 言う者は誰であるか |
7 「ある」の意義 |
【著者】
和辻哲郎 わつじてつろう(1889―1960)
兵庫県神崎郡砥堀村仁豊野(現在の姫路市仁豊野)に生まれる。倫理学者、哲学者。著書に『古寺巡礼』『風土』『倫理学』『日本精神史研究』ほか。
参考 |
本文中の欧語の一部について、訳語を簡略に記します。
Auslegung〔独〕解釈、陳列
Aussage〔独〕陳述、発言
Befindlickkeit〔独〕自己発見性
besorgen〔独〕配慮的な気遣い
Dasein〔独〕生存、存在。本論ではハイデッガーの用法で現存在
das Lachen〔独〕笑うこと
das Wissen〔独〕知識(〔英〕でいうknowledge)
Dativ〔独〕与格、3格
die Lache 〔独〕笑い
die Wissenschaft〔独〕学問、学、専門知識(〔英〕でいうknowledgeに加え、scienceの意を含む)
Erschlossenheit〔独〕自己開示性
essentia〔羅〕本質
et〔仏〕~と
existentia〔羅〕実存、現存
Gegenstand〔独〕物、対象
Geschehnis〔独〕出来事、事件
Infinitiv〔独〕不定詞、不定形
reason〔英〕理性
Rede〔独〕話、演説
Sein〔独〕~である、存在、有(〔英〕でいうbeing)
und〔独〕~と
Vernunft〔独〕理性
Verstehen〔独〕了解、理解
Wesen〔独〕本質
Wille〔独〕意志
Worin〔独〕その中で